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鹿児島簡易裁判所 昭和36年(ろ)12号 判決 1962年5月02日

被告人 角地正春 外四名

主文

被告人角地正春を罰金八〇、〇〇〇円に、

被告人坂上時義を罰金六〇、〇〇〇円に、

被告人岩崎三郎を罰金六〇、〇〇〇円に、

被告人松葉良雄を罰金六〇、〇〇〇円に、

被告人村山政義を罰金六〇、〇〇〇円に、

処する。

被告人等において右の罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中国選弁護人佐藤通吉に支給した分は全部被告人松葉良雄の負担とし、その余は全部被告人等全員の連帯負担とする。

理由

第一、罪となるべき事実

被告人等は牧原主他二〇名と共謀の上、運輸大臣の免許を受けないで、別紙一覧表記載のとおり、昭和三四年一二月二〇日から昭和三五年八月三一日までの間、鹿児島市及びその週辺において、鹿児島県タクシー運転者共済組合という名称の下に乗客の需要に応じ有償で自家用自動車を使用して旅客を運送し、もつて一般乗用旅客自動車運送事業を経営したものである。

第二、証拠の標目(略)

第三、弁護人の主張に対する判断

弁護人は、被告人等は自家用自動車を共同で使用する形態の組合として鹿児島県タクシー運転者共済組合を作り、その組合の理事者又は使用人として、右組合の所有である自家用自動車で組合員という特定人を運送したものであり、その際収受した金員は右組合維持のための相当額の実費であつて、営利行為ではなく、従つて被告人のなした自家用自動車による運送行為は道路運送法第四条にいう自動車運送事業の経営には該当しない、と主張する。

そこで案ずるに、前掲各証拠によれば、先ず運行される車を利用するにすぎないいわゆる第二種組合員は、組合員名簿に掲載されているだけでも二、〇〇〇人余の多数にのぼつているが、その実態は、加入申込には何等の資格制限も理事会の審査もなく、誰でもいわゆる出資金内金名目の一〇円を払い込んで加入申込書に住所氏名等を記載するという極めて簡単な手続のみで簡単に資格を取得できるのであつて、身元確認もなされていないため加入申込書の記載には偽名等虚偽の記載が多く従つて加入申込書ないしは組合員名簿によつてもその範囲を適確に把握できないし、またその大多数は車を利用する機会に自家用自動車を運行するいわゆる第一種組合員から「この車は共済組合の車だから組合員証がなければ乗れない。」という程度の簡単な証明を受けて加入しているだけで、組合の趣旨、目的等については何の論議も理解もなく、組合の自家用自動車の利用については、一般に、安いタクシーを乗客として利用している、という認識があるだけであり、また定款の規定の上ではとにかく、組合員総会に出席する、あるいは代議員の選出に関与する等により組合の運営に参加する機会は現実には与えられないことが明らかであつて、到底組合の構成員としての実質を伴つておらず、結局いわゆる第二種組合員は道路運送法第二条第二項の旅客たる他人に該当するものと認められるのであつて、弁護人主張のように組合員なるが故に特定人であるとは認められない。次に維持費もしくは利用料の名目で収受されている金員であるが、前記各証拠によれば、これは、旅客たる他人から、走行距離に応じて計算された運送の対価として支払われ、しかして被告人等の運転する自家用自動車のガソリン代、修理代、第一種組合員の給料(自己の出資したと称する車により徴収されたいわゆる維持費の多寡によつて変動する)、各第一種組合員が購入した自家用自動車の購入月賦代金等に支出されるものであることが明らかであるから、実質的に何等営業用タクシーの料金と異るところはないし、維持費名目で徴収される金員の多寡による利害は、結局同組合員の名称の下に自家用自動車の運行を反覆する各第一種組合員の得失に帰するものと認められるから、営業用タクシーの料金に比して低廉であることは事実であるが、その故に現実には余剰の利益が生じなかつたからといつて営利目的がなかつたとは認められない。

以上、要するに前掲各証拠によれば被告人等の本件行為は、運輸大臣の免許なくして他人の需要に応じ自家用自動車を使用して有償で旅客運送行為を反覆継続的になしたものと認められるから、弁護人の主張は採用できない。

第四、確定裁判

(一)  被告人坂上時義は昭和三六年五月二三日鹿児島簡易裁判所で道路交通法違反罪により罰金四、〇〇〇円に処せられ、右の裁判は同年六月七日に確定したものであつてこの事実は同被告人の当公廷における供述と同被告人の昭和三七年三月三〇日付前科調書によつて明らかであり、

(二)  被告人岩崎三郎は昭和三五年一一月八日鹿児島簡易裁判所において道路交通取締法違反罪により罰金一、〇〇〇円に処せられ、右の裁判は同月二三日に確定したものであつて、この事実は同被告人の当公廷における供述と同被告人の昭和三七年三月三〇日付前科調書によつて明らかである。

第五、法令の適用

全被告人につき

道路運送法第四条第一項、第一二八条第一号(刑法第六条、第一〇条に則り、昭和三五年八月二日法律第一四一号道路運送法の一部を改正する法律による改正前のもの)、刑法第六〇条

被告人坂上時義、同岩崎三郎につき、

刑法第四五条後段、第五〇条

全被告人につき

刑法第一八条

刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 富沢達)

(別紙一覧表略)

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